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人身傷害保険の請求上の注意

人身傷害保険の請求上の注意に関して、以下項目を解説しています。
・人身傷害保険とは?
・人身傷害保険は自己の過失分の損害を填補
・人身傷害保険と損害賠償請求との先後関係
・人身傷害保険の請求手続の注意事項

人身傷害保険とは?

契約車による搭乗者の人身事故に対して、実際の損害額(治療費、逸失利益、慰謝料等)に対して保険金が支払われます。
また、保険のタイプにより、契約車以外の車に搭乗中の事故や、歩行中等の自動車事故も対象となります。
詳細については、上記メニュー「Home」にある左記メニュー「任意保険の基礎知識」を参照下さい。

人身傷害保険は自己の過失分の損害を填補

人身傷害保険は自己の損害を填補するもので、被害者に保険金を支払った保険会社は、加害者側に対して求償権を行使できますが、その求償権の範囲について争われた最高裁判決の要旨が以下の通りです。
【最高裁判決(平成24年2月20日)の要旨】
保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において、上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
《解説》
上記の要旨を式で表すと、以下のようになります。
@保険金額が裁判基準以下の場合
以下の関係にある場合は、保険会社は加害者に対して求償権を行使できません。
人身傷害保険の額+加害者の過失分の額 =< 裁判基準による損害額
A保険金額が裁判基準を上回る場合
以下の関係にある場合は、保険会社は加害者に対して求償権を行使できます。
ただし、求償の範囲は、被害者の過失分を超える額のみです。
人身傷害保険の額+加害者の過失分の額 > 裁判基準による損害額
【結論】
この最高裁判例に基づき被害者は、人身傷害保険により”裁判基準”の損害額に対する自己の過失分の損害を填補し、さらに、人身傷害保険で不足する額に対しては、加害者の過失分を限度として加害者側に請求することができます。
よって、保険会社は、被害者が”裁判基準”の損害額の填補を受けていない部分については、加害者側に対して求償権を行使できません。
【補足事項】
平成22年の保険法改正に伴う保険約款の見直しにて、上記の最高裁判決の要旨に従った約款としている保険会社もあります。
よって、任意保険に加入している方は、その保険会社の約款(ご契約のしおり等)を参照下さい。

人身傷害保険と損害賠償請求との先後関係

先に自己が加入する任意保険の人身傷害保険を受領した場合と、先に相手方から損害賠償金を受領した場合とでは、自己の損害が填補される額が異なる場合があります。
この場合について、以下の具体例によって解説します。

傷害事故の具体例

自己の過失割合:8割
自賠責の減額割合:2割減額
被害者の損害額(裁判基準):200万円

【損害賠償額】(相手方に請求可能な額)
[減額割合]8割減額
[減額後の額]40万円
【自賠責基準額】(自賠責保険に請求可能な額)
[金額]100万円
[減額割合]2割減額
[減額後の額]80万円
【人身傷害基準額】(自己の任意保険から受け取れる額)
[金額]80万円

先に自己が加入する任意保険の人身傷害保険を受領した場合

@人身傷害基準額:80万円受領可
A自賠責基準額:80万円受領可
B損害賠償額:自賠責で填補されたので請求不可
上記の順番にて受領する事で、以下の金額が受領できます。
80万円+80万円=160万円

先に相手方から損害賠償金を受領した場合

@自賠責基準額:80万円受領可
A損害賠償額:自賠責で填補されたので請求不可
B人身傷害基準額:自賠責で填補されたので請求不可
結果として、以下の金額が受領できます。
80万円

相違が生じる理由

一部の保険会社の人身傷害保険の保険金額の計算では、相手方の自賠責保険・対人賠償保険・損害賠償金などを受領した場合は、保険会社の約款によりその額を差し引く事としているためです。
任意保険に加入している場合は、ご自身が加入する保険会社の約款(ご契約のしおり等)をご確認下さい。

人身傷害保険と損害賠償請求との先後関係の最高裁の見解

この件については、最高裁判決の補足意見間に説の対立があるため未解決です。
最高裁判例(平成24年2月20日)の補足意見では、裁判基準損害額を確保するという考えを取っており、最高裁判例(平成24年5月29日)の補足意見では、『現行の保険約款についての見直しが速やかになされることを期待するものである』として、現行の約款を尊重する立場を取っています。
よって、現時点では、ご自身が加入している保険会社の約款を確認し、先に人身傷害保険を受領するか否かの検討が必要です。

人身傷害保険の請求手続の注意事項

保険金の支払いを受けるには、ご自身が加入する保険会社に対して、保険金請求に必要な保険会社所定の用紙の送付を依頼します。
この場合に、保険会社所定の用紙(支払請求書、確認書、協定書など)に以下のような記述がある場合は、そのまま提出してはいけません。
【記載例】
私は、上記事故によって私の被った人身損害について、貴社との保険契約に基づき、下記の保険金を受領することにより、本件事故についての人身傷害保険金の請求が一切終了したことを確認致します。 また、本件事故による私の甲・乙に対する損害賠償請求権は、受領した下記保険金の額を限度として貴社に移転することを承認します。
【問題点】
『本件事故による私の甲・乙に対する損害賠償請求権は、受領した下記保険金の額を限度として貴社に移転することを承認します。』という記述のまま同意してしまうと、人身傷害保険にて自己の過失分を填補し、さらに、加害者の過失分を加害者側に請求できなくなります。
【対策】
上記の記載がある保険会社の場合は、上記【最高裁判決(平成24年2月20日)】を反映した約款の変更をしていない会社と考えられます。
よって、ご自身が加入している保険会社の約款を確認し、先に人身傷害保険を受領するか否かの検討が必要です。

 
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